米国立環境健康科学研究所ジャーナル
EHP 2008年11月号 サイエンス・セレクション
ハウスダストの刺激
DEHPはアレルギー患者の炎症反応を高める


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 116, Number 10, October 2008
Science Selections
The Irritation of House Dust: DEHP Heightens Inflammatory Response in Allergy Sufferers
http://www.ehponline.org/docs/2008/116-11/ss.html#thei

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年11月5日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/08_11ehp_DEHP.html


 過去の研究は、一般的によく使用されている可塑剤であるフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)(訳注0)は、子どものぜんそく症状[EHP 116:98?103 (2008)]及び、ほこりダニアレルゲンによって引き起こされるマウスの皮膚炎[EHP 114:1266?1268 (2006)]の一因となることを示唆している。アレルギー疾患の流行とフタル酸エステル類への環境的暴露の両方が過去数十年間に劇的に増大しているが、ヒトの気道粘膜が吸入されたDEHPにどのように反応するかを検証した研究は少ない。新たな研究が、ハウスダスト中のDEHPへの暴露はアレルギーの人の鼻粘膜に反応を起こすが、アレルギーではない人には起こさないことを示した[EHP 116:1487?1493; Deutschle et al.]。

 DEHPは塩ビのパイプ、床材、食品容器、その他の家庭用品などに含まれている。経口摂取が暴露の主要経路であるが、吸入ももうひとつの暴露経路である。DEHPは消費者製品から室内に直接揮発し、浮遊するダスト粒子に取り付く。

 研究対象は、16人のコントロールとハウスダストダニにアレルギー反応を示す16人であった。研究者らは対象者らを二つのサンプル、すなわちDEHPを0.41mg/g含む掃除機で吸入したサンプル(DEHPlow)、又はDEHPを2.09mg/g含む増量サンプル(DEHPhigh)のうちのどちらかひとつに3時間暴露させた。インターロイキン(IL)(訳注1)-2, -4, -5, -6, -8、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)(訳注2)、炎症性タンパク質(ECP)を含んで、アレルギー性炎症のバイオマーカーを測定するために、暴露後に鼻汁が採取された。鼻孔から得られた組織のマイクロアレイ(訳注3)によって1,232の遺伝子の発現が分析された。

 どちらか一方のDEHPの投与の後、アレルギーではないグループは鼻の粘膜に変化はなく、バイオマーカーのレベルにも著しい変化はなかった。しかしDEHP暴露は、アレルギーのあるグループのバイオオマーカー変化に関連があった。DEHPlowの暴露を受けたアレルギー対象者の半分は G-CSF, ECP, IL-5, 及び IL-6のレベルが著しく高かったが、一方、 DEHPhighの暴露を受けた他のアレルギー対象者はG-CSF と IL-6のレベルが著しく低く、免疫系反応が低下したことを示唆した。

 DEHPは、現在の研究結果によって示されているように既知の遺伝子発現調節因子(訳注4)である。健康な対象者における二つの暴露グループの間で、6つの遺伝子の活性が促進され、4つの遺伝の活性が抑制された。アレルギーのある対象者における二つの暴露グループの間で、8つの遺伝子の活性が促進され、8つの遺伝子の活性が抑制された。DEHPによって活性が促進された遺伝子のひとつは抗ミュラー管ホルモン(訳注5)であり、それは男性の適切な性腺発達と関連している。DEHPは乳酸脱水素酵素A(訳注6)と睾丸形成調節因子である繊維芽細胞増殖因子9(訳注7)の発現を抑制する。この遺伝子発現データはアレルギー反応の解明にはほとんどならないが、それらは、今までに示されていたフタル酸エステルの生殖系の発達を損なう内分泌かく乱物質としての作用を確認した。

キャロル・ポテラ(Carol Potera)


訳注0:フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)
 ・フタル酸ビス(2-エチルヘキシル) 『ウィキペディア(Wikipedia)』
 ・ECHA プレスリリース 2008年10月28日 高懸念物質候補リスト 会社に新たな義務を課す
  (DEHPは正式にREACHの高懸念物質候補となった。)
 ・塩ビの可塑剤DEHPの安全性について(塩化ビニル環境対策協議会のウェブページ)

訳注1
 ・インターロイキン 『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注2
 ・G-CSF (顆粒球コロニー刺激因子)
 ・顆粒球コロニー刺激因子 『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注3
 ・マイクロアレイ(京都大学大学院 ゲノム創薬科学分野)
 ・DNAマイクロアレイ『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注4
 ・遺伝子 『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注5
 ・抗ミュラー管ホルモン
 ・抗ミュラー管ホルモン

訳注6
 ・乳酸脱水素酵素 『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注7:繊維芽細胞増殖因子関連情報
 ・炎症性環境での活性を糖鎖付加によって増強した細胞増殖因子の発明


化学物質問題市民研究会
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